コラム
ColumnBonsai Slovakia 2014 再訪に感謝
大地に根ざした樹を見た事のない人はいるでしょうか。荒涼な砂漠地帯にも、コンクリートで埋め尽くされた都市であっても、そこには必ず大地に根を張る樹を見つける事ができます。盆栽は心の中にある「樹のある景色」を鉢の上に表現していくものです。したがって、盆栽には「流派」というものはなく自然から学ぶのだと教えられます。小さな鉢の中で育てられる樹に対し躾をし、健康に仕立てあげていく。植物の育つ環境であれば、言葉や文化、歴史など異なる環境であっても、年齢性別も関係なく誰にでも楽しめることができる存在であり、土から離すことなく生きる美しさは、日々を共に成長する家族、自然の摂理から大切な事を教えてくれる先生だとしばしば感じさせてくれます。
5月24日から27日まで開催された第17回BONSAI SLOVAKIA(盆栽スロバキア)への出演依頼を受けたのは年が明けてすぐのことでした。
スロバキア共和国への訪問は昨年コシツェ市で開催された欧州文化首都2013に続き2度目となり、2年連続の訪問は夢にも思っていなく、これもスロバキアで最初の盆栽専門店Bonsai Studio Nitra(1988?)を営むオンジェック氏との出会いと熱心な要望が形となり、再びスロバキアを訪れる機会につながったこと、心から感謝をしています。
BONSAI SLOVAKIAはオンジェック氏が1998年から毎年主催する盆栽を軸にした複合イベントで、盆栽の他に茶、音楽などを取り入れ、日本文化のみならずアジア圏の文化を紹介しています。
会場には国内から集められた盆栽が、日本で行われる展示会と同様に卓(しょく/盆栽を飾る台)に一点一点置かれ展示されており、独自の飾り付けをされているスペースもあり、バラエティに富んだ展示に構成されていました。物販店舗も置かれ、そこでは盆栽、道具、茶、茶道具など取り揃えられ、興味を持った来場者がすぐにでも始められるよう、導く配慮がなされています。
今回、私が招集されたのは、イベント2日目「JAPAN DAY」にて行われる盆栽のデモンストレーションへの出演が目的でした。
デモンストレーションとは、観衆の前で培養段階の鉢に植えられた全く手の入れていない樹に技術を駆使して盆栽としての方向付け、形を整えて行く作業を数時間内に仕上げるというものです。樹の個性を見いだし、正面、角度の設定から始まり、剪定、針金を利用して幹や枝を整えて行きます。
今回、題材となった樹種はスロバキアで自生するイブキでした。デモンストレーション当日の朝、オンジェック氏の自宅にて培養されている樹からデモンストレーションに適した状態の樹を1点選び出し会場に運びます。
25日JAPAN DAY。在スロバキア日本国大使の江川明夫大使のご挨拶から始まり、チェコ在住の佐藤賢也氏による三味線演奏や煎茶、抹茶のデモンストレーションなど日本文化を紹介する催しが行われました。
午後2時から盆栽のデモンストレーションが開始。ステージ上に私とポーランドから2組、イタリアから1人、そして、スロバキアで盆栽を楽しむ可愛らしい12歳くらいから8歳までの男の子と女の子の3兄弟があがり、3時間の制限時間の中で作業を行います。
ステージで各自作業をする中、司会進行を勤めるオンジェック氏が作業の内容を丁寧に解説し、質疑応答を交えながら進めていきます。
私はまず正面の選択にいくつかの候補を挙げ、観衆に意見を求めながら樹の個性を引き出し、可能性を秘めた正面を決め、それについての解説をします。その後は剪定、針金整枝に時間を目一杯使い完成に向けて作業を行います。剪定段階で樹の半分程の不必要な枝を切り落とし、その後枝に針金を巻き付け、適切な位置へ配置していく。適切な位置とは、人が手を加えておきながら、最終的に針金をはずした段階で人工的な匂いを感じさせない素直な枝の配置です。盆栽は造形物ではありますが、自然界に「あるようでない、ないようである姿」を作り上げる事ができれば、年数を経た後に人と自然が融合した姿になるのではないかと私自身は捉えています。完成作品は半懸崖の樹形に仕上げ、ひとまず今後の盆栽としての姿を方向つける事ができたと思います。
大盛況で終わったデモンストレーションのステージを降りると1人の男性が質問をしてきました。「この枝を切る必要があったのか」もちろん切る必要があったから切ったわけですが、切るという行為に対し不安を抱く愛好家が多いのは日本でも海外でも同じようです。樹全体の姿と今後の成長具合を踏まえて剪定したことを説明することで、納得をしてくれるのですが、最初の剪定で約7割の仕事が片付いてしまうほど、剪定には現状と将来を見据えた判断が必要になってくるものです。
冒頭で植物が育つ環境であれば盆栽は楽しめる趣味であると述べましたが、もうひとつ重要なことがあります。それは、人の手が加えられなければ枯れてしまうということ。人が手を加えられる環境とは、そこに大きな弊害なく育てられるということです。盆栽の中には我々の年齢よりも長く生きているものが少なくありません。社会や家庭に平穏があり、戦争や紛争がない世界でこそ盆栽が盆栽として生き続けていけるということです。幾多の危機的困難のさなかであっても枯れる事なく受け継がれてきた樹も日本には多く残されています。日本のみならず世界の国々において、盆栽が盆栽としての日々を過ごし、その美しさが時を越えて人々に感動を与え、平和を構築するひとつの「種」として世界に根ざすことを願います。
いつの日か再度スロバキアを訪れ、今回手がけた盆栽が健康に成長している姿を見られる日を心から楽しみにしています。
最後になりましたが、今回、このような機会を与えてくれたオンジェック夫妻とEU・ジャパンフェスト日本委員会様には心より感謝を申し上げます。